EU AI法を巡る最新の展開は、「延期交渉の決裂」という形で企業の意思決定カレンダーを直撃している。議会と加盟国は、高リスクAI規定の適用を最長2027年12月まで延期することで大筋合意を目指していたが、協議は決裂し、次回日程すら定まっていない。結果として、今年8月に迫る高リスク規定の適用期限が再び現実的な前提として戻ってきた。
最大の争点は、機械や医療機器に組み込まれるAIを、AI法ではなく機械指令や医療機器規則といった業種別法令で規制できるようにする提案だ。ドイツのメルツ首相はこの規制緩和路線を主導したが、連立パートナーである社会民主党は「非常に緊急」と題した書簡でEU議員に反対を呼びかけ、与党内部の亀裂が国際交渉に持ち込まれた形となった。中道左派と複数の加盟国も反対に回り、合意は成立しなかった。
並行して、欧州議会内市場委員会はAnthropicのMythosモデルに関する公聴会を予定し、AI Officeトップや欧州委員会代表も招いている。これはAI法のシステミックリスク条項が実運用でどう機能するかを問う最初の試金石となる。さらに、AI Officeが2025年9月に締め切った公募から7か月が経過してもAdvisory Forumが未設置のまま、35の組織・研究者が設立を求める声明を出すなど、実装面の遅れも同時多発で表面化している。
日本企業にとっての含意は明確だ。EU市場に機械・医療機器・産業用AIを投入する事業者は、延期を前提とした計画を一旦凍結し、8月適用シナリオで技術文書・ログ・人間による監督の要件整備を走らせる必要がある。二重規制の切り分けは政治的に流動的なため、両シナリオで発動条件を分けた予算管理が現実解となる。