融資業務のどこをAIが担うか

Sakana AIは2025年初頭にApplied Teamを始動し、金融や防衛など社会基盤分野に注力している。その中で開発中なのが、銀行の融資業務をAIエージェントで支援するプロダクトだ。融資業務は顧客情報・財務データ・事業内容を収集整理し、分析したうえで稟議書などの資料に落とし込む複雑な業務である。

Software Engineerの酒井将汰はこう語る。

AIが判断を置き換えるのではなく、分析や資料作成の負担を減らし、行員の皆様がお客様との対話や重要論点の検討に集中できる環境をつくることを目指しています。

具体的には初期分析・情報整理・財務シミュレーション・稟議書ドラフトの作成を支援する。AIが最終判断を担うのではなく、行員の隣で支援する位置づけだ。

「業務上十分な品質」をどう定義するか

技術的な核心は、通常のWebアプリ開発との違いにある。通常のWebアプリは入力や期待される出力が比較的明確でテストを組み立てやすい。一方でAIエージェントはプロンプト・コンテキスト・モデルの挙動で出力が変わるため、「何をもって業務上十分な品質とするか」を定義すること自体が重要になる。

さらに金融領域ではセキュリティ・クラウド環境・既存システムとの接続といった制約が大きい。設計ではコンテキスト管理・ツール実行・権限管理・監査ログ・人間による確認ポイント・エラー時のリカバリーまで含めて組み立てる必要がある。AIにどの情報を渡すのか、どこまでAIに任せ、どこから人間やアプリケーション側で制御するのかを丁寧に分ける。モデルを呼び出して結果を表示するだけで完結しない点が、実業務組み込みの分岐点だ。

PoCをエンタープライズ品質へ引き上げる

マネージャーの本田勝寛によれば、チームはSoftware EngineerとSolution Engineerで構成される。Software Engineerはフルスタックに動き、PoCレベルのシステムを大企業で運用可能なエンタープライズ品質まで引き上げる役割を担う。Solution Engineerは金融機関や大企業のセキュリティ・ネットワーク・運用の制約に合わせてシステムを成立させる。Web系出身者だけでなくデータサイエンティスト・SIer・クラウド・SREなど多様なバックグラウンドのメンバーが連携している。研究色の強い印象とは異なり、顧客志向とチームワークが前提の現場であることが語られた。