欧州AIオフィスは、EU AI法の執行を担うEU唯一の中央機関であり、現在6ユニット・2アドバイザー体制で125名超の技術専門家・弁護士・政策専門家・エコノミストが所属する。汎用AIモデル(GPAI)に対してモデル評価の実施、情報および是正措置の要求、制裁適用の権限をAI法により直接付与されており、これは加盟国当局ではなくEUレベルで統一的に行使される点が特徴だ。
2025年11月、欧州委員会は「デジタル簡素化パッケージ」の一環としてAI法の改正案を提示し、規則の明確化とイノベーション促進を図りつつ、欧州AIオフィスの権限強化と、汎用AIモデル上に構築されたAIシステムの監督一元化を盛り込んだ。これにより、上流のモデル提供者と下流のシステム統合者を横断する監督体制が整備される方向にある。
執行面だけでなく、Apply AI Allianceを通じたAIプロバイダー・産業界・学術界・公共部門の連携、AI Observatoryによるセクター別影響追跡、GenAI4EUによるロボティクス・ヘルス・バイオテック・製造・モビリティ・気候・仮想世界など14産業エコシステムでのユースケース開発支援も並行して推進されている。規制機関であると同時に、EU産業のAI実装を加速する政策ハブでもある点が、米国や他地域のAI当局と異なる。
日本企業にとっての実務的含意は明確だ。EU市場で汎用AIモデルを提供する、あるいはGPAIを組み込んだ製品をEUに出荷する場合、欧州AIオフィスは事実上の単一窓口となる。モデルカード、学習データ概要、システミックリスク評価などの提出要件、契約上の責任分担、制裁リスクの織り込みをEU展開の初期設計段階から組み込むことが、参入コストの前提条件となっている。